はたして”敵”とはいったい誰の事なのか、人を簡単に壊してしまう戦争の黒い一面とは?
この本を読んで
本作「同志少女よ敵を撃て」はメッセージ性のある非常に興味深い本でした。
昨今のウクライナ情勢や台湾有事などに関心を持つきっかけとなると思います。
本のあらすじ
「同志少女よ敵を撃て」
独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。
自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。「戦いたいか、死にたいか」ーーーそう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。
母親を打ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復習するために・・・・・。
同じ境遇で家族を失い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。おびただしい市の果てに、彼女が目にした、”真の敵”とは?
本書背表紙、あらすじから引用
「これだけは知っておいてほしい!」予備知識
時代背景
ここから独ソ戦争について説明します。
かなりショッキングな内容となっていますので、苦手な方はお控えください。また、本書「同志少女よ敵を撃て」もかなりショッキングな内容を含みますので、ご注意ください。
独ソ戦争(第二次世界大戦)の概要
人類史上最悪の戦争「独ソ戦争」
両軍最大3000万人の死者を出し、血で血を洗う戦場。ヨーロッパ北部の寒い地域では飢餓で食料がないため、上の兄弟を活かすために末っ子の赤ん坊を殺しその肉を食べていたという。
独ソ戦争は1941年から1945年、ナチス・ドイツを中心とする枢軸国とソビエト連邦との間で繰り広げられました。
結果としてソ連が大勝し、ドイツ軍は壊滅的被害を被りました。ロシアではその昔ナポレオン・ボナパルトから祖国を守った戦争「祖国戦争」に似せて「大祖国戦争」と呼ばれています。
戦局の移り変わり
簡単に説明すると
ドイツの奇襲成功 → 冬の到来で戦局逆転 → ドイツとソ連の総力戦
という流れになります。
独ソ戦は1939年に結ばれた「独ソ不可侵条約」をヒトラー率いるドイツ軍が一方的に破棄するような形で始まりました。
ソ連軍元帥のスターリンは各国にいるスパイから「ドイツ軍が攻めてくる」という忠告を無視し、無防備のままドイツ軍を迎え撃つことになります。
開戦当初ドイツの奇襲は大成功し、わずか数カ月で首都モスクワに迫る勢いで進軍しました。しかし例年より早い冬が到来し、補給路が以上に伸びたドイツ軍の足は完全に止まってしまいます。
スターリンも「ドイツ軍を殲滅しろ」という号令を出し、徹底抗戦の姿勢を見せ戦局をひっくり返します。予備戦力や補給路の無いドイツ軍と、極東精鋭部隊(対日本)の支援や十分な予備選力のあるソ連では力の差は歴然でした。
スターリングラードの攻防
主人公セラフィマ達が参戦したスターリングラードの攻防の概要はこのようになっています。
- 時期:第二次世界大戦中期(1942年6月28日~1943年2月2日)
- 場所:ソビエト連邦・スターリングラード(現:ヴォルゴグラート)
- 戦果
- ソ連:勝利
- ドイツ:大敗(ドイツ陸軍 第6軍壊滅)
- 死者数合計:200万人前後
- ソ連(連合軍):120万人
- ドイツ(枢軸国軍):85万人
この戦いでドイツは東部への進軍を諦めざるを得なくなり、枢軸国の負けがほぼ確定になります。太平洋戦争で言う「ミッドウェイ海戦」のような位置づけです。
歴史上最悪の戦争と言われる第二次世界大戦。その中でも激戦となったスターリングラードの攻防では尋常ではない数の兵士が亡くなっています。
およそ4年続いた太平洋戦争の日本の死者数が310万人程度ですから、それと比較すると恐ろしい戦いですね。
天王星(ウラヌス)作戦
ソ連領スターリングラードは敵軍(ドイツ)によって包囲されていました。天王星(ウラヌス)作戦とは、その包囲しているドイツ軍もろともさらに外から包囲するという作戦でした。
本作に登場する武器(一部)
・TOZー8 狩猟用の射撃ライフル。主にセラフィマ(主人公)や母エカチェリーナが使用していた。
・榴弾砲 幼馴染であるミハイルが所属する部隊が使用する武器
・KV-1 ソ連軍の大型戦車。ドイツ軍の射撃をもろともしない頑丈さを持つ。セラフィマ達の援軍部隊
・T-34 ソ連軍の中型戦車。赤軍最強と謳われた戦車で高い機動性と高い火力を併せ持つ。
・SVT-40 セラフィマ達が使用するスナイパー。
・ZB-26 ルーマニア兵(敵軍)が使用する機関銃
・PPSH ソ連軍の短機関銃
・PTRD1941 超大型スナイパー。装甲を突き破る威力を持っている。
登場人物
女性狙撃部隊
- 主人公セラフィマ:目の前で母を殺したドイツ狙撃手と、目の前で母を焼き殺したイリーナに復習するべく、訓練に没頭する少女
- イリーナ:セラフィマ達女性狙撃部隊の教官。彼女自身も狙撃兵として戦地に赴いていた。
- シャルロッタ:モスクワ狙撃大会の優勝者。セラフィマとはウマが合わない?
- アヤ:カザフの猟師で、射撃の腕は一級品
- ヤーナ:ママと呼ばれる最年長
- オリガ:ウクライナ出身のコサック?
イワノウスカヤ村
- ミハイル:セラフィマの幼馴染。将来は結婚すると村の人からからかわれていた
- エカチェリーナ:セラフィマの母
ここからは実際に読んでみて、注目してほしい点を紹介します。
注目ポイント1(主人公の心情)
注目ポイントの1つ目は主人公セラフィマや、少女たちの心情の変化です。「少女たちは何を求め入学したのか」また、「戦地で何を感じたのか」
複雑に絡み合う憎悪や希望の光がリアルな戦場に立つ少女たちを際立てます。
注目ポイント2(各登場人物の最期)
注目ポイント2つ目は各登場人物が最後どのように死んでいき、残された者たちに何を教えたのかです。誰がいつ死ぬのかはネタバレになってしまうので伏せますが、それぞれの人物の死は残された者たちに大きなメッセージを与えます。
戦争と言うものに死はつきものですが、敵味方関係なく人が死ぬというというのはなにか特別なもののように感じます。
第二次世界大戦で数千万人が無くなりましたが、それぞれの死にはストーリーがあり、その死には数千万種類の意味があったと思います。
昨今ウクライナをはじめとする戦争が起こっていますが、考えさせられる内容となっています。
注目ポイント3(本物の敵とは?)
戦争は人間を変える。戦争は始めた時点で全員が悪人であると私は感じました。復習に燃えるセラフィマが最後に殺したのは一体だれなのか。
題名である「同志少女よ敵を撃て」の敵とは?
敵国であるドイツの兵士なのか、それとも少女を戦地に送り出す自軍の上官なのか、
ぜひ読む際には誰が最後に殺されるのか、真の敵とはだれなのかを予測しながら読んでみてください。
メッセージ(私の感想)
本作「同志少女よ敵を撃て」を読んでみての感想として、非常に奥が深い作品だと感じました。読み取り方は様々あるにせよ、本作「同志少女よ敵を撃て」を読んだ人は戦争に反対するのではないでしょうか。
今回の部隊は独ソ戦でしたが、数十年前同じような戦いが日本を含む世界中で起きていました。戦争のリアルは平和な世界に住む私たちが想像もできないような、まるで悪夢を見ているかのような状況です。
今こうしてブログを書いている間にもウクライナの人々や、中東などの紛争地で何の罪もない一般市民が苦しんでいると考えると心が痛みます。
ぜひそう言った問題に対するとっかかりとして本作「同志少女よ敵を撃て」読んでみてはいかがでしょうか。
コメント